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2007年10月15日 (月)

宇江佐真理著『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草子・江戸前でもなし』

シェアブログusakitiに投稿
先日の色艶セット買いの少し前に買った健全本です(笑)。
や、って別に吉原や愛人がとんでもなく不健全って話でもないんですけど。


何がきっかけで手に取ったかと言うと、何とはなしにめくった目次頁で出くわした「秘伝 黄身返し卵」なる代物!!(笑)見てぇ!!と一気に興味が膨らんだ訳です!!
これらタイトルにも表れてますが、お江戸の小粋な美味・珍味と人情話を上手い事絡ませた短編連作型作品でした。
ここでの人情は、主にすれ違う想いのもどかしさ…とりわけ、なかなか正面きって歩み寄る事の出来ない若夫婦の姿を、主人公・のぶのちょっとした精神的成長を交えつつ描いています。


のぶは八丁堀の隠密廻り同心、椙田正一郎の元へ嫁いで暫く経つ女性。馴れ初めは突如先方から話を持ち掛けられ、という要は見合い婚な訳ですが、彼女にとって正一郎はいつも道ですれ違う度に胸が高鳴る憧れの存在で…夢の様な縁談話に、気持ちを固める迄いくらも時間はかかりませんでした。
嫁ぎ先の姑も口は悪いが根は悪くなく、舅はのんびり優しい言葉でいつものぶを気遣ってくれる。そして傍らには想い焦がれていた男性…さぞかし幸福に満ちた日々を送っているかに思われましたが…。

しかし今の彼女の心を重くしているのは、あろう事か夫・正一郎の存在。
彼は日頃のぶに優しい言葉ひとつかけてくれないばかりか、少しでも妻として、嫁として至らぬ所あれば…鋭く咎めたて容赦なく詰ります。故に夫の前では、いつもびくびく身を竦ませている日々。未だ子が産めずにいる現実も尚、彼女のつらい心に追い討ちをかけています。
更に正一郎には、実は彼女を嫁に迎える前、是非にもと想い焦がれていた別の女性がいた事ものぶの知る所となっていて。その事が余計に、夫は本意から自分を娶った訳ではないのだろう…だから目に入るだけでも気に触る、疎ましい存在なのだろう…――と、自分自身を追い詰める結果を生んでしまっています。


そんな息の詰まる様な毎日で、彼女の心をすうっと和らげてくれるのは。

『のぶちゃん、どこだい? わし、腹が減ったよう』

のんびりゆったり飄々と、彼女にいつも変わらぬ気さくさで接する舅の忠右衛門。
今はお役目も閑職につき、もうじきしたら隠居願いでも…という暮らしぶりで、結構悠々自適な日々を過ごしている御仁です。
そんな舅殿の何よりもの楽しみが、美味しいものを心赴くままに堪能する事☆文字通りの気の向くままの行動に半ば振り回されつつも、のぶにとっては沈みがちの心を少し晴れやかにしてくれたり、ぽろりと溢れ出そうな涙をすんでの所で止めてくれたりする…かけがえのない「支え」であるのです。



この忠右衛門の「食い道楽」が、物語全体の大きなスパイスになっていて。各話で登場する食べ物も、進行のキーポイントになっていきます。
ここで登場する食べ物は、興味深い事に何と言いますか…大体が、「味が決まってない」もの達ばかりなんですよね。淡雪豆腐とか心太とか…。
中には雑炊の様に、味加減匙加減が調理の際重要になる料理もありますが。でもそれらも味付けそのものに美学や個性があっても、決してそれを前面に押し出す事を目的とした料理ではないんですよ。自分から主張してくる類の味ではない、と言いますか。
つまりは食べる人によって味わいが変わる…もっと言うと、同じ人でも食べた時の心情によって味わいが変わる。そういう食べ物を用いる事で、のぶの心境の変化を上手く描き出しているんじゃないかなぁと思います。


良く食べ物は奥が深い、と言われますが。その深さとは、「味わって」みて初めて分かってくるものですよね。
でも時には、悔し涙と一緒に飲み込んだ「涙味」のものだってあったり。あんなに大好物だったのに、ひとりで食べると何故だか味気ない…と感じたりする事もあります。
そう考えると、「味わう」というのは「心」の状態にも大きく左右されているみたいで。実は結構「味は心ほどにものを言う」とも言えるんじゃないかな?と、意地を張ってばかりののぶを見ていて思ったりしました。


最初は只心を堅くして、正一郎の冷たい振舞いを理由に自らも彼を拒絶していたのぶ。呼応する様に、食べ物に対しても味わう事を拒む姿勢が見られます。美味しくなければキライ、で偏食も甚だしくて。
やがて事態は深刻になっていき、夫婦関係の存続をも問う所に迄発展していくのですが…。徐々に心をさらけ出し始めた正一郎に対して、のぶはまだ心を凍りつかせたままなんですね。
けれども彼女の食べ物に対する感想は、ちょっとずつちょっとずつ軟化していって。正一郎には素直になれずいるのに、食べ物には素直に「好き」「美味しい」と思える事が増えていく。彼女自身にすらその事を気付かせぬ様にして、無意識に変わりゆく心の奥底を描いていた様な気がします。

「風景に色がついていく」という言い回しを借りると、この作品は回を追う毎に「食べ物に味がついていく」様なお話。
必ずしも万人が認める極上の一品ではない食べ物を媒体にして、味わう人間の心の変化をより細やかにみせてくれた様に感じます。


正直読んでいる最中は、のぶの心の傷が深いのも分かるけど意固地だよなー、なんて感じる事もままありましたが…。後になってふとこういう意味合いがあったのかも、と思い直した次第です(笑)。
こういった形で食べ物を凖レギュラー(!?)の座に据えた構成が、思いの外しっくりきていて楽しめました!!


そして結構最後の最後迄目が離せない展開で。忠右衛門のふわふわした人格描写が、ラストの独特な余韻を生み出してくれた気がします!!
うーん読んでいて重々感じてはいたつもりでしたが、それ以上に奥も味も深ーいじいちゃんだったのかも。
好好爺乍らも掴み所のない老人、なキャラ好きにはたまらない人物だと思いますよ(どういう路線へのアピールなのか…)。



何だかんだで読了2冊目の宇江佐真理。やっぱり気になる作家さんです、この人…。
他にもいくつか作品買ってはいるので、順次読んでいきたいのですけど。あぁでも今は借りっぱなしの三国志が……(葛藤)。



※記事中の『』部は、『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草子・江戸前でもなし』(宇江佐真理著/講談社文庫)より抜粋しました。



宇江佐真理著『卵のふわふわ 八丁堀喰い物草子・江戸前でもなし』
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