026 「旅」からイメージする本は?
「イメージが結ぶ100の言葉と100の本」、今度は「旅」から連想した本があったのでちょろりと語ります。
この言葉から思い出したのは、カズオ・イシグロの『日の名残り』。原著は英国文学で、私は土屋政雄訳の文庫本で読みました。
とても品のある哀愁を感じた、胸に響く一冊です。
物語は厳格な英国執事、スティーブンスの視点で語られる一人称形式の作品。
長い執事生活の中で、彼が追い求めてきたのは執事たる者としての「品格」――。流れゆく時の中で時代は移ろい、年を重ね、仕える主人も替わり…そんな変化の中でも只黙々と「品格ある執事」たる事のみを胸に仕事に打ち込んできた彼が、新主人の勧めで6日間程の短い旅に出た時。彼は初めて、改めて自らの歩んできた道・時代を振り返ってみるのです。
旅先で出会った出来事や人々を描きつつ、想いはかつての華々しい日々や若かりし自分、そして今にして思えば「戦友」の様であった女中頭との思い出へと向かっていって。そんな追憶の甘美さ、もの寂しさ、そして想いの辿り着いた先…を、重ねた齢の分に相応しい穏やかな流れで描いています。
「老い」を迎えようとしているスティーブンスが時折見せてしまう哀愁…今迄出来ていた事が出来なくなり始め、しかしそれを自らに訪れた変化としては認めようとしない様。それはかつて自身が「執事の鑑」と仰いだ父が、寄る年波に勝てず現役を退いた時の様子と着実に似通っていて。その事に気付いていない…様に振舞い続ける彼の姿に、胸がぐっと締まる様な切なさを感じたのを覚えています。
そんなスティーブンスが、人生初の遠出であるこの旅の中で今迄歩んできた人生、これからの事を自らに問いかける姿…は、何だか誰しもに訪れる「いつか」を見る様で目を逸らす事が出来ませんでした。
…思いだし乍ら書いている内に、又改めて読み返し感想書きたい気分になってきちゃいましたねぇ~。
何か10年おき位で読み返し続けたい作品。きっとその度に抱く感情が違ってきそうだから。
って読んでからまだ10年は経っていないのですが、…まぁ又頁をめくってみたいです。
因みにこの題名、原題は『The Remainds of the Day』。これを『日の名残り』と訳した感性、個人的には非常に強い感銘を受けたんですー!!変な言い方ですが、参った、って感じ。
こういう日本語の用い方、本当好きだなぁ…。憧れますよ。
カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳『日の名残り』 書籍情報はこちら→アマゾン bk1
企画元様→ 「イメージが結ぶ100の言葉と100の本」
« ブログパーツ「国盗りカウンターブログパーツ」 | トップページ | ぶらり湘南海岸の旅 »
「バトン・質問」カテゴリの記事
- 「イメージが結ぶ100の言葉と100の本」に挑戦します(2007.10.21)
- 057 「中国」からイメージする本は?(2008.08.09)
- 037 「雪」からイメージする本は?(2008.07.13)
- 055 「戦記」からイメージする本は?(2008.07.06)
- 036 「雨」からイメージする本は?(2008.05.16)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/15527/9991858
この記事へのトラックバック一覧です: 026 「旅」からイメージする本は?:
コメント